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BLUE MOTIONSNew Year 2018 issue
THE CORE
すべては“CORE”から生まれる

Next Wave

クラシックという 伝統に、
新たな風を 吹き込む

齋藤友香理氏(指揮者)

小澤征爾氏やヘルベルト・フォン・カラヤン氏など世界的に有名な指揮者が、オーケストラを従えて指揮をとる姿は、もはやクラシック音楽とは別の領域に位置した芸術と言っても過言ではなかろう。そして、その指揮者に我々が持つイメージは、やはり男性がメインに活躍する世界を想像しがちだが、最近では女流の指揮者も多く存在する事実がある。
そこで今回は、若手指揮者の登龍門と言われるフランスの「ブザンソン国際指揮者コンクール」にて、聴衆&オーケストラが選ぶ最優秀賞を獲得し、現在ドイツ東部のドレスデンを拠点に世界的に活躍する齋藤友香理氏にご登場いただき、彼女の核となる芸術性や思考に迫るべくお話を伺った。

指揮者「齋藤友香理」の誕生

最高の演奏を知っていながらそれとどう違うのか、この指揮者はどう料理するのかを楽しむのがクラシック音楽なのだが、過去にも様々な名指揮者が指揮をとってきた楽曲を、譜面通りに演奏させながらも、自らの解釈を注入し個性を出すことは容易ではない。ましてはクラシック音楽の本場へ単身で乗り込み、そこで結果を出すなど、想像をはるかに超える努力がそこにはあるのだ。ではなぜ彼女は、その狭き門を目指そうと思ったのだろうか。
「もともとピアノをやっていたのですが、ピアノって一人で練習するものなので時々寂しくなることがあったりして、バイオリンを習っている友達とかと一緒に演奏をするようになりました。そうするうちに、やっぱり大勢で何かを作り上げる方が楽しいなって思い始めたんです。その感覚の延長でオーケストラに興味を持ったのがきっかけです。大学でもピアノ科を専攻していたのですが、副専攻として同じようにカリキュラムで学ぶことできたので、大学時代から指揮も習い始めていました」。

大きいものになると100名以上で構成されるオーケストラも存在するのだが、その中心となり、演奏する音楽を高いレベルでコントロールして観客に届ける大役を務めるという仕事の楽しみは、どのように感じているのだろうか。
「もちろん楽しい場面より、悩んだり苦しんだりすることが多いのですが、続けていると稀に“きた!”って一瞬があるんです。感覚の問題なので上手に言葉では伝えられないのですが。場の空気が変わり、オーケストラと自分がつながる感覚っていうんですかね。その瞬間をどれだけ長く保つかっていうのは、指揮者でしか味わえない事かもしれません。そうなるために必要だなと思うのは、音楽とはいえ対話だと思っているので、彼らが私に対して聞く耳を持たせるのも勝負どこですね」。
言ってみれば、アスリートでいう“ゾーン”に入った状態と近いということなのだろうか。

また、指揮者がオーケストラをマネージメントするという意味で捉えた場合、そこに必要な資質とは何かが気になるところ。
「根底として人を見るというところはあります。ただ難しいのは、彼らもこちらを見ているということ。そこを踏まえた上で、私の表現したい音楽を高いレベルで押し付けるわけですから、やはりマネージメント能力というのは重要ですよね。ただ全部を押し付けるのではなく、彼らのやりたいことを汲み取りながら、彼らにやってみようかなと思わせることが大切だと思っています」。
さらに言えば、演奏者個人やオーケストラ全体のキャラクターも把握しなくては、マネージメントは成立しない。
「やはり最初のリハーサルが一番緊張しますね。お互いがどう見られるかが、ある程度決まってしまう機会でもあるし、過去に他の指揮者ですでに同じ曲を演奏されているので、アジア人でしかも女性となると、やはり勝負どこだと思います」。

眼前には手練れの演奏家達が睨みを利かせ、後には耳の肥えた観客を背負った状態で本番に臨む指揮者であるが、そのプレッシャーたるや、その世界に身を投じる者でしか味わうことができないある種の極限状態のような気もするが、実際はいかに。
「それは怖いですよ(笑)。指揮者は最初と最後しかお客さんの方を見ないですが、お客さんの重圧は結構感じます。ただ本番までには、正直指揮者の仕事はほとんど終わっていると言っていいかもしれません。と言うのも、リハーサルの段階でほぼ完成させてくるので。もちろん瞬間瞬間で、少し変化をさせることはありますけど、その調整程度です。そういう意味では、ある種のエンターテインメントに近いかもしれませんね」。
仕事をしていく上でよく言われる「段取り八分・仕事二分」という言葉があるように、指揮者にもその言葉が当てはまるようだ。もちろんそれに付随する責任の重さは計り知れない。

指揮者のもうひとつの仕事、時間配分

「私たち指揮者の重要な仕事のひとつに時間配分をするということがあります。もちろんコンサートの演奏時間もありますし、リハーサルの休憩や終了時間など、彼らは時間でお給料をもらっているので、時間というのは常に気にしています。また私は演奏会が終わって、次に行く演奏会があったら、その前の国で時間調整をします。眠くなったりすると困るので、次の国の時間に合わせて寝たりという調整をしています。これまで電波時計を使ったことはなかったですが、一瞬でその国の時間に切り替わるのはすごいですね」。

時間、人、仕事。何かをマネージメントするには、基準となるある種の自信が必要となってくる。それは自らを信じることであり、腕元で時間を刻むOCEANUSの持つ絶対性のような安心感から来るようなことなのかもしれない。

「世界中を移動したい。指揮者は指揮棒だけ持って行けば大丈夫だし、今や譜面は全てiPadに入るので」そう話す齋藤友香理氏が、5月12日(土)に東京オペラシティコンサートホールにて日本凱旋公演をおこなうという。彼女の世界観を体感すべく、是非とも足を運んでいただきたい。

Text: Tatsuya Nakamura | Photography: Masashi Nagao

齋藤友香理 (さいとう ゆかり)

東京都出身。桐朋学園大学でピアノ専攻し、のちに指揮者に転向。大学卒業後はローム ミュージック ファンデーション「音楽セミナー〈指揮者 クラス〉」で小澤征爾、湯浅勇治、三ツ石潤司各氏の指導を受ける他、新日鉄住金文化財団の「指揮研究員制度」で学ぶ。2013年よりドレスデンに拠点を移し、ドレスデン音楽大学大学院 オーケストラ指揮科に在籍し、ゲオルグ クリストフ・ザンドマン教授に師事。
2015年、若手指揮者の登竜門とも言われ、1959年に小澤征爾さんが優勝したことでも知られるブザンソン国際指揮者コンクールで、聴衆やオーケストラが選ぶ二つの「最優秀賞」を獲得。2017年10月にはトーンキュンストラー管弦楽団との公演においてウィーンにてダニエル・オッテンザマー氏と共演を果たす。
また、2018年には東京交響楽団、読売交響楽団、大阪フィルハーモニー交響楽団、兵庫県立芸術文化センター管弦楽団との共演が予定されている。

<コンサート情報>

東京オペラシティシリーズ 第103回

出演:[指揮]齋藤友香理、[独奏・独唱]アンティエ・ヴァイトハース(vl)、東京交響楽団
日程:2018年05月12日(土)14:00 開演
場所:東京オペラシティコンサートホール