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“今”の自分を映し出し、“未来”を奏でるバイオリン職人
<NEO TOKYO STRINGS>の弦楽器

“今”の自分を映し出し、“未来”を奏でるバイオリン職人
<NEO TOKYO STRINGS>の弦楽器

山手通りと井の頭通りが交わる渋谷区富ヶ谷の交差点。車の往来が激しいその立地に、一歩足を踏み入れると外の喧騒とはかけ離れた静かで落ち着いた空間が存在する。今回インタビューするバイオリン職人、井筒功氏の工房<NEO TOKYO STRINGS ネオ・トーキョー・ストリングス>だ。そこには、ぽつんと照らされたデスクランプの明かりを頼りに、黙々とバイオリン製作をする井筒氏の姿があった。

仕上作業前に、隆起の形を決める重要な中削り作業を行う井筒氏。

バイオリン職人。あまり聞きなれない言葉ではないだろうか。それは単にバイオリンだけでなく、ビオラ、チェロ、コントラバスといったバイオリン属の弦楽器を製作する人を総称して“バイオリン職人”と呼ぶ。一括りに弦楽器といっても、アンサンブルという言葉がある通り、まったく違った音色を奏でるため、それぞれの製作をこなす過程は、我々では計り知れないものがある。そもそも多くの方が一生のうちに手にすることのないであろう、これら弦楽器。なぜ井筒氏は、バイオリン職人という道を選択したのだろうか。
「もともと父がバイオリン職人だったのが、きっと大きな理由だと思います。それに長男でもあるので家業を継がなくては、という思いが心のどこかにあったのかもしれません」。
実は井筒氏、著名なバイオリン職人である井筒信一氏を父に持つサラブレッドなのだ。そんな父の傍らで育ったのならば、さぞやバイオリン漬けの毎日を送っていたと思いきや、どうやらそうではなかったみたいだ。
「父は基本的に私を工房に入れてくれませんでした。むしろ親戚の子たちは入れるけど、自分の子供は入れないという徹底ぶりでしたね。ですから、子供ながらの好奇心でこっそりと忍び込んだりはしてましたが、その程度なんです。どちらかというと物作りに関しての興味や憧れの方が強かったかもしれません」。

隆起(アーチ)の削り作業を行う工具「豆カンナ」。

バイオリンに自らを投影し、表現する大切さ

偉大な父親からではなく、アメリカはシカゴにある“シカゴ・バイオリン・スクール”で製作を学んだと井筒氏。そして、自ら製作を重ねるうちにバイオリンの奥深さに引き込まれていったという。その魅力とは一体なんなのだろうか。
「バイオリンの音というのは、かなりの至近距離で弾いてもうるさく感じないんですね。しかし、大きなホールで演奏すると遠くまで音が届くんです。すごく不思議じゃないですか。また楽器自体に様々な逸話が存在することや、人間の声に近いと言われたりと、製作の難しさや音色の美しさ以外にもたくさんの魅力があるところです」。

ノミ、ペグホールリーマー、スクレーパーといった特殊工具を使い、独特な丸みや、繊細な音質の調整をする。

製作者の思いがより深く楽器に投影されているからか、確かに高貴や妖艶といった少し現実離れをしたイメージをバイオリンに対して抱く。一本完成させるのに最低でも一ヶ月は掛かるというバイオリンの製作に、どんな思いを込めながら臨むのだろうか。
「同じものを正確に同じ工程で作業するルーティーンワークが苦手でなんですね。もちろん、このバイオリン製作も匠の職人の世界なんですけど、私の場合はちょっと違いまして、自分はどちらかというとアーティストよりの感覚が強いなと感じています。バイオリンって、誰が見ても同じように見えるのですが、実は作り手によって、厚みや隆起そしてf字孔の形など微妙に変化を加えているんです。作り手やその世界の人にしか分からない部分なんですけどね。でもそうでなければ、機械が作ればいい話ですから。だからこそ許された中での自由をどう表現するかが、苦しみでもあり楽しみでもあるんです。その時の自分の心境が、楽器にすごく出てくるんですよ」。
魂を込めて作るからこそ、作り手の人柄がそのまま楽器に投影されるのであろう。
「他の業種の職人さんでも皆さん同じだと思いますが、出来上がった商品を並べておくよりも、早く売られていった方がいいわけです。買ってくれた方の感性がそこに加わってこそ、初めて完成というわけなのです」。

完成したチェロを手にする井筒氏。

その時の自分が出来ることを命がけでやる。その作業を繰り返していかないと、自分が目指す境地にはたどり着かない。常に進化するために妥協を許さないその姿勢は、まさにOCEANUSの物作りと通じるものを感じる。そんな井筒氏はOCEANUSに対して何を感じたのだろうか。
「細かいところまで神経が行き届いているのが、よく分かります。日本のメーカーでもこんなに雰囲気のある腕時計を作るんですね」。
高い意識の中で仕事をこなすからこそ分かる境地がある。きっとOCEANUSも、セレクトした方が身に着けた瞬間こそが完成の時なのかもしれない。

Text: Tatsuya Nakamura | Photography: cherry chill will

NEO TOKYO STRINGS

バイオリン職人である井筒功氏のバイオリン工房。一階には雰囲気のあるバー“CALLAS”を併設している。またバイオリン、チェロ、ビオラの少人数制製作教室も開催している。

東京都渋谷区大山町28-3 villa大山2F

電話:03-6324-5300

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