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その先にある“光”を信じ、伝統技術を継承する
<ベッ甲イソガイ>の鼈甲製品

その先にある“光”を信じ、伝統技術を継承する
<ベッ甲イソガイ>の鼈甲製品

かんざしや櫛、眼鏡にアクセサリーなど、古くは飛鳥・奈良時代から我々日本人の生活の中に深く関わりのある鼈甲(べっこう)製品。中でも東京(江戸鼈甲)は三大産地の一つとして、全国生産量の半数を上回る。そもそも鼈甲とは、温かい海に生息する玳瑁(タイマイ)という海亀の甲羅から作られる製品のことを指す。その甲羅は、粘着性のある膠(にかわ)質が多く含んでおり、接着剤を使用せずに製品を加工することができる、極めて貴重な素材であるという。今回東京は下町・亀戸に工房を構える<べッ甲イソガイ>を訪ね、“江東区無形文化財”として鼈甲製品の製作はもちろん、その存続にも深く関わり、新製品の開発や伝統技術の継承に努める、磯貝實氏にその未来について話を伺った。

接着剤を使わず、熱した鉄板で挟み込み数枚の甲羅同士を張り合わせる圧着の工程。

素材が持つ力だけを利用し、形にする技術

「熱と水と圧着だけで繋ぎ合わせや捻り、そして曲げることができるのが鼈甲の特徴です。これが他の亀の甲羅だと膠質をほとんど含んでいないので、ただ切ることはできますが、貼り合わせて厚みを増すことができません」。
こういった話を聞くと、つくづく自然の生き物が持つ力の凄さを実感する。先人達が育んできた知恵と技術にならい、現代まで継承されてきた伝統の技を惜しみなく使い、形をなす。
「同じ甲羅でも、場所によって硬さや厚みが違ってきます。例えば肩まわりなどは、動きがある部分なので厚みがあるのですが、柔らかかったりします。各部位の特性を見抜き、どの部分で何を作るかを見極めるのは大変重要な作業です。甲羅を触った時の肌触りだけで、素材の乾燥状態が分かれば、圧着の際などのものすごく繊細な温度調整が可能となってくるのです」。
製品化するのに適した箇所を選び抜く熟練された目利きもまた、さすがと言わざるを得ない。手先の感覚が、すべての作業工程で大切になってくる。経験から学んだ感覚を研ぎ澄まし、すべて活かすことで守られてきた江戸鼈甲こそ、守らなくてはならない伝統工芸なのだ。

東京優秀技能者(マイスター)でもある、<べッ甲イソガイ>代表の磯貝實氏。

守るべき伝統工芸に立ちはだかる壁

江戸時代、ポルトガル人により長崎の出島に伝わり、奈良から京都、そして江戸へと渡り普及した鼈甲製品。向島の花柳界の発展とともに成長してきた鼈甲産業だが、華やいだ時代も永遠には続かず、花柳界の衰退は自らの産業の縮小も意味していたと同時に、ワシントン条約という更なる追い打ちが。
「昔から鼈甲の仕入れ方法は、100%輸入に頼っていました。しかし23年程前にワシントン条約に該当する品目に指定され、材料の輸入が完全にストップしてしまったんです。うちにはまだ、代々受け継がれているストックがあるので賄うことができていますが、残念なことにほとんどの鼈甲工房は閉じてしまいましたね」。
絶滅の恐れがあり、保護が必要とされる野生動植物に規制がかけられるワシントン条約であるが、実際には不思議な現象が起きているという。
「世界の海亀博士に日本国政府が依頼し調査してもらった結果では、減っていないということなんです。皮肉なことに、主な原産国があるカリブ海域では、定置網にかかった玳瑁(タイマイ)は食料としての需要はあるけど、甲羅を活用する文化がないので結局捨ててしまうのです。我々としてみれば、鼈甲製品のためにわざわざ獲るのではなく、それでいいから輸入させてくれと訴えているのですが、こちらの想いはなかなか伝わりませんね。勿体無い話です」。

このままでは貴重な素材となりつつある、加工前の美しい鼈甲。

しかし、そこにはまだ“光”があると磯貝氏が続けて話してくれた。
「100%輸入に頼っていた素材が今後も入らなければ、いつか鼈甲製品がなくなってしまうのは目に見えています。我々が継承してきているのは、伝統工芸ですから、国としても守らなくてはいけないものです。そこで産業省とも何ができるかと協議した結果、玳瑁(タイマイ)の養殖を研究するということ。第一段階としてオーストラリアではすでに成功を収めました。ただ、温かい海域に生息する生き物なので、日本でやるとなると水温の問題が出てきたりと、まだまだ研究が必要な状況です。これは私の見解ですが、この研究の成果が出るのは10年、20年先の話ではなく、数年以内に成果が出るのではないかと思っています」。

江戸時代より使われている、職人の命ともいうべき特殊な工具の数々。

最後にOCEANUSについての印象を聞いてみた。
「腕時計というものは、時を伝えてくれれば十分と私自身は思っていますが、OCEANUSを手にして感じたのは、付いている機能を必要としている人にとって、ものすごく使いやすく仕上がっていること。これは見ただけでも伝わってきます」。

自らが持つ伝統技術を継承していくだけではなく、様々な障害を乗り越えながら存続させていくということは、我々には計り知れない苦悩があるはず。それは、同じくOCEANUSの開発者にも当てはまること。しかしその苦悩の先にある未来は、いつも明るく光り輝いているはずだ。

Text: Tatsuya Nakamura | Photography: Masashi Nagao

ベッ甲イソガイ

東京は下町、亀戸に工房をおくべっ甲工房。現在、磯貝實と3兄弟の息子たちで製作した製品を浅草と亀戸天神前の直営の店舗にて販売。

東京都台東区浅草1-21-3

電話:03-3845-1211

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