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曰く“書棚を見れば、その男性(ひと)がわかる”
女性読書狂が勧める傑作アメリカ文学選

曰く“書棚を見れば、その男性(ひと)がわかる”
女性読書狂が勧める傑作アメリカ文学選

『書物を読むということは、他人が辛苦してなしとげたことを、容易に自分に取り入れて自己改善をする最良の方法である』ソクラテス

最近、「小説なんか読んでも意味がない」という言葉をよく耳にする。それは本好きな私に向けられる冷笑的な一言であったり、カフェで隣合わせた人の会話だったり、某雑誌の本特集のタイトルだったりと色々だが、インターネットでライフハック的な情報が溢れ、いかに時間を節約するかが叫ばれているような時代、確かに本、それも新書やビジネス書ではなく文学作品を読む、というのは無駄なことなのだと思われがちなのは分からなくもない。しかしながら、読書狂を自称する者として、「そこまではっきりと言い切れるほど、あなたはちゃんと小説を読んでいるのか?」と少しイジワルな気持ちで問い質したくなってしまう。読まないと見えてこない世界があること、読むからこそ見えてくる世界があること、それは暇さえあれば読書をしている私が保障したい。そして、私が出会った魅力的な男性は皆かなりの読書家であったことも。

男を磨くためのアメリカ文学入門

例えば、ヘンリー・ミラーの『北回帰線』。パリを舞台にした半自伝的物語は過激な性描写の故に長く発禁になっていたことで有名だが、正直それを目的に読むと肩透かしを喰らうだろう。ただだらだら飲み、食い、無駄話をするといった、脈絡のないエピソードが続き、読みにくいことこの上ない本である。ただそんなたわごとのような文章の合間に現れる、神懸ったような哲学的思惟はひょいと人間的なモラルや善悪を飛び越え、生の意味を読む者の眼前に突きつける。それはともかく、誰でもない一人の男が既存の価値観を覆し、混沌の中に自分だけの秩序を見出し、作家としての自己を確立する姿は、コンシャスな努力だけが、他から自分を差別化する方法だと教えてくれるだろう。別の言葉で言えば、ありのままの自分=オンリーワンな特別な存在、じゃないことを痛感するはず。それではいかに自己を確立するか? ヘンリー・ミラーが読書というものに特別な価値を見出していた作家だったとここでは言うに留めよう。

ハーマン・メルヴィルの『白鯨』も読んで欲しい一冊。主人公イシャメルは冒険を求めて捕鯨船に乗り込むのだが、いつしか船長であるエイハブの片足を奪った巨大な白い鯨「モービー・ディック」への復讐劇に巻き込まれていく。物語のほとんどが船上で展開されるという極限的に限られた条件でこれだけの物語を展開させるのはただただメルヴィルの天才がなせる技だが、朝の通勤電車でも、打ち合わせの待ち時間でも、自分の部屋でも、一瞬にして青く輝く大海原にトリップできるのは本ならではの魅力。きっと都会の生活で忘れてしまった冒険心や男としての本能を取り戻させてくれるはず。そしてイシャメルや銛打ちクークェッグ、一等航海士スターバックスなどの仲間たちと共に、1300ページ超に渡る航海を終え、自分より大きなものに触れた後、きっと人間的な成長を遂げているに違いない。

岩波文庫の分厚い上中下巻はさすがにハードルが高いというのであれば、レイモンド・チャンドラーの『ロング・グッドバイ』はいかがだろうか? ハードボイルド小説の代表的な存在として有名な本だが、クールでありながら、弱者に優しく、すぐに情に流されてしまう主人公である私立探偵フィリップ・マーロウは文学史上の中でも指折りな色男。大声で主張しない、男の魅力というものの神髄が溢れているような気がする。またラベンダー色の髪をした美女や、アル中の億万長者など、一癖も二癖もある登場人物との会話がとにかくウィットに富んでいてカッコいい。これは暗記してもいいレベルだ。洒落た会話で女性を酔わせたり、機転の利いた一言で仲間たちから「やっぱりあいつは違う」とリスペクトされるスムーズな男になる方法、やはりそれも読書以外にはないはず。

同じくスタイルというものを突き詰めるのならば、スコット・フィッツジェラルドの『グレート・ギャツビー』は必読。愛する女性を手に入れる為に成り上がったギャツビーの品のない成金感が上流階級出身の主人公の目を通してなんとも皮肉に描かれている。『僕がまだ年若く、心に傷を負いやすかったころ、父親がひとつ忠告を与えてくれた。その言葉について僕は、ことあるごとに考えをめぐらせてきた。「誰かのことを批判したくなったときには、こう考えるようにするんだよ」と父は言った。「世間のすべての人が、お前のように恵まれた条件を与えられたわけではないのだと」』。この主人公との喧嘩は絶対に勝てそうもなくて、そのあらゆるプリヴィレッジを悪びれることなく享受している感じはgentlemanly という言葉の定義を与えている気がする。男性誌のジェントルマン特集などを読む前に、こちらもチェックするのはいかがだろうか?

そして男を磨くのならば、人間的な器を大きくすることも大切。おススメしたいのは、カート・ヴォネガット。正直、ヴォネガットならどの本でもいいと思うというか、とりあえず全著書を今すぐオーダーするべきなのだけど、入門書的におススメなのは『チャンピオンたちの朝食』。「これは死期も間近なある惑星に起こった、二人の孤独な、やせた年配の白人の出会いの物語」なのだが、ヴォネガットはシニカルでありながらユーモアたっぷりな筆致で、当たり前に受け入れてしまっている日常の事柄の下らなさや卑劣さ不条理さなどをこれでもかと暴いていく。ヴォネガットのフィルターを通して世界を見ること、そしてその作品の根底に流れる大きなヒューマニズムに触れることは、ともすればプロパガンダや宣伝に流されて大切なことを見失ってしまいがちな現代人にとってなくてはならないことなはず。そして物語の怒涛のエピファニーを体験すれば、きっともっと男らしく優しい視線で世界を眺めることができるのではないだろうか?

ファッションに気を使ったり、筋肉を鍛えたり、ワインやシングルモルトの銘柄を覚えたりするように、文学作品を読めば、また違った魅力を身に付けることができるはず。これらの本があなたの血や肉やフェロモンになって欲しい。本物の文学は時空を超え人間の本質に迫るものなのだ。OCEANUSも時間と空間を自在に操る男性の傍にあり、その人の人生を少しでも豊かにするための“本物”であり続ける存在を目指しているのだろう。
最後に映画“ピンク・フラミンゴ”で有名なジョン・ウォーターズのクォート(格言)。
“If you go home with somebody, and they don't have books, don't f*** 'em!”
(家に本が無いような男とは寝てはならない)

お家には、是非素敵な本棚を!

BOOK LIST

『北回帰線』 ヘンリー-ミラー著(水声社)

『白鯨』 ハーマン・メルヴィル著(岩波文庫)

『ロング・グッドバイ』 レイモンド・チャンドラー著(早川書房)

『グレート・ギャツビー』 スコット・フィッツジェラルド著(中央公論新社)

『チャンピオンたちの朝食』 カート・ヴォネガット著(早川書房)

Text: Nagisa Imaizumi | Photography: Masashi Nagao

今泉 渚 (いまいずみ なぎさ)

ニューヨーク大学文学部卒業後、外資系ブランドのPRを経て独立し、現在はBLENDi PR 代表取締役兼チーフ・パブリシストとして活躍。読書部屋の床が抜けるのではないかと日々怯えながらも暇があってもなくても本を買い読み漁っている。ブログ、『本のPR』では、朋友ジラール・ミチアキと古今東西の名作を紹介し、読書の面白さ、おしゃれさをアピールしている。

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