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1R“3分”の向こうにある永遠
キックボクサー 藤原あらし氏

1R“3分”の向こうにある永遠
キックボクサー 藤原あらし氏

なぜキックボクサーなのか。現在37歳と、選手としては高齢の部類に入るにもかかわらず、今も現役として、いやそれ以上の結果=ルンビニー日本バンタム級王者として君臨している藤原あらし氏。彼をして、何故そこまでキックボクシングにのめり込ませ、また戦い続けるのか。その真実を知りたいと思った。

始まりは小さなきっかけだった

「高校生までは、陸上やサッカーなど体を動かすことを主に生きてきて、足には自信があったのですが、東京の大学に行くために、その全てを無にして限界まで勉強に打ち込んだ時期がありました。その結果、体が動かなくなってしまい、自分でもどうにもならない毎日を過ごしていたんです。そんな時テレビで観た、やるかやられるかの研ぎ澄まされた駆け引きの中で戦う一人のK-1選手の蹴り技に心を奪われ、自分にはこれしかないという、ある種の確信を胸に、入学と同時に大学のキックボクシング同好会の門を叩いたのが始まりです」。
キックボクサー藤原あらし氏の誕生の瞬間である。

体を動かすことには自信があったとはいえ、ただ最初から“あらし”は存在したわけではない。
「初めてのスパークリングで、とにかく『こいつに殺されるんだ』ってほど、怖かったのをよく覚えています。グローブをはめているのに、コンクリートの塊で殴られる感じがするんです。もう恐怖感しかありませんでした。寝ていても、ダウンの夢ばかり見るくらいでしたから。それを拭うためには、やはり練習しかないと」。
百戦錬磨の強さを誇る藤原氏だが、すべてはたゆまぬ練習と自分自身を律する精神力を鍛え続けることでしか生まれないことの実証なのだ。
「生きていてよかった。また朝日が見ることができてよかった。減量で食べることができず痩せこけてギリギリのところまで行くと、日々の当たり前のことにまで感謝するようになるんです。なので僕は今、ど突かれようが、何をされようが怒らないですよ(笑)」。

日本人がルンピニースタジアムで戦う意味

ムエタイ(キックボクシング)の本場“タイ”の中でもメッカと称され、世界レベルの強豪たちが名を連ねる聖地“ルンピニースタジアム”で異例のランカー(トップ選手)として活躍する、日本からの侍・藤原氏だが、国内で行われる試合と本国での試合とでは大きな違いがあるという。
「まず、タイの選手と日本の選手を比べた時、ハングリーさに圧倒的な違いがあります。彼らは子供の頃からジムに寝泊まりをし、ムエタイ一色の人生を送っています」。
国技としてのムエタイが、幼少期より家族を養う稼業として成り立っているのだ。
「小学校4年生くらいの子でも、すでに100戦の経験があったりします。僕でさえ77戦ですからね(笑)。それに、タイの選手はリングで向き合った時の目が違います。なんでしょう、狩りに来るというか。日本では感じたことのない種類の威圧感です。とは言うものの、こちらも日本代表として日の丸を背負って乗り込んでいますから、負けるわけにはいきません」。

一般的に社会で37歳といえば、まだまだこれからと言われるであろうが、次々と若手が輩出されるスポーツの世界では、年齢が行き過ぎているのだろうか?
「もうそろそろ引退しないの?って、同年代や年下の方からもよく言われたりするのですが、正直ちょっとムカっときます(笑)。大丈夫?の目線で来る貴方たちの限界を、俺に押し付けるな!と言いたいのを我慢しています。僕は辞めません。目指しているルンピニースタジアムでチャンピオンになったとしても、自分より強いやつがいる限りは戦い続けます。もちろん勝つのが前提ですけど、戦いに負けた悔しさは、戦いでしか果たせないですしね」。

生涯現役。彼の言葉からその一言が思い浮かんだ。自分でリミットを作ってしまうほど悲しいことはない。諦めたらそこで終わり。それはキックボクサーだけに言えることではなく、我々すべてに当てはまることなのではないだろうか。

インタビュー直後の、先日10月2日に藤原氏の試合が新宿Faceにて行われ、我々はその模様も取材させていただいた。

セミファイナル・国際戦に登場した藤原氏。対戦相手はムエタイ本場タイからの新鋭ガイパー選手。若手ながらも落ち着いた雰囲気は、メジャースタジアム以外の戦歴を含めると100戦以上はこなしているキャリアの裏付けなのだろう。ムエタイ特有の試合前の舞“ワイクルー”を終え、自陣に戻り静かに相手を見据える両者。そして試合開始。お互いの間合いを詰め、膝蹴りを出し合いけん制しながら、接近戦の均衡が続いた後、その瞬間は突然訪れた。藤原氏の放った鋭い左ローキックが右足を捕え、鈍い音と同時にリングに倒れ込むガイパー選手。一瞬の出来事であった…。見事1分23秒で1R・ノックアウト勝利を収めた藤原氏。その時間を短いと感じる方も多いかもしれないが、その勝利は前回9月の試合から、はたまたそれ以前からの練習の結果なのかもしれない。一瞬は、長い年月という時間で創り上げられているのだ。リング上にて感謝の意を家族や応援してくれたファンの方々に伝えながらも、その表情は、すでに次の試合を見据える男の顔に変わっていた。

真の強さとはなんだろう。決して腕力だけではない何か。藤原氏の試合を観戦して、信念を貫き通し、自分を信じること、いや信じられる自分に鍛え上げることなのではないかと感じた。それは決して格闘家に限ったことではないだろう。我々自身にもその命題は突きつけられているのだ。その強さを持った男の顔には、人々を惹きつける美しさがある。その美しさこそが、OCEANUSと繋がる男の証なのかもしれない。

Text: Tatsuya Nakamura | Photography: Masashi Nagao

藤原 あらし (ふじはら あらし)

キックボクサー / ルンピニー日本バンタム級王者

バンゲリングベイ・スピリット所属。日本キック界「軽量級最強の男」と称される。第23代全日本キックボクシング連盟バンタム級王座、WPMF世界スーパーバンタム級王座、第2代WBCムエタイ日本統一バンタム級王座等、数々の名誉あるタイトルを獲得。またムエタイ本場タイ・ルンピニースタジアムのランキングに入り、ルンピニースタジアムでのタイトルマッチを2回経験する等、37歳を迎えた現在も現役世界ランカーとして活躍する。

オフィシャルサイト(バンゲリングベイ)

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