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伝統と革新
和菓子の未来を切り開く「asobi」心
和菓子職人・稲葉基大氏(wagashi asobi)

伝統と革新
和菓子の未来を切り開く「asobi」心
和菓子職人・稲葉基大氏(wagashi asobi)

口の中で滑らかにほどける「ハーブのらくがん」、お酒にもパンにも合う「ドライフルーツの羊羹」。今日もこの二つの商品を求めて、地元のみならず遠方からも多くのお客さまが訪れる。東京都大田区上池台、小さな商店街の一角に居を構える「wagashi asobi」のアトリエ兼店舗。その硝子戸を開けると純白のコックコートに身を包んだ和菓子職人の稲葉基大氏が迎えてくれた。wagashi asobiは稲葉氏と、同じく和菓子職人の浅野理生さんの二人からなる和菓子創作ユニット。稲葉氏は老舗和菓子店でニューヨーク勤務6年間を含む20年間の修行を経て独立。現在はこのアトリエを拠点に国内だけでなくニューヨークやパリなど海外にも活動の「和」を広げている。

毎朝5時近くに起きてアトリエに向かい、粛々と羊羹を煉る。国内外さまざまなメディアから注目を浴び、予約注文も殺到している状況だが、大量生産をしたり商品数の数を増やす気はないという。なぜ二つだけの商品にこだわるのだろうか。
「多店舗拡大路線ではなく、二人それぞれの自信作『ドライフルーツの羊羹』と『ハーブのらくがん』の二種類に絞り、その品質を磨いていきたいんです。末永く愛される名菓になってくれれば」と稲葉氏は話す。
メインとなる商品は上述の二種類だが、「クロームハーツ」など様々な企業とのコラボレーションやお茶会では趣向を凝らした和菓子のオーダーメイドも数多く手がけている。
毎朝仕込みの前にはお茶を入れて好きな音楽をかけ、詩をしたためる。そんなひとりの時間も大切にしているという。

「ドライフルーツの羊羹」北海道産小豆の上質な餡と沖縄県西表産の黒糖とラム酒で炊き上げた、香り高くあっさりした甘さの羊羹に、ドライフルーツの苺と無花果、胡桃がゴロゴロと入っている。

海外からのお客さまも多く、あるフランスのパイロットはフライトで日本へ来るたびにお土産を片手に訪れ、かならず羊羹を買って自国へ帰るという。そして稲葉氏自身も各国でのワークショップや、過去には長期間の海外勤務を経験してきたが「世界に和菓子を広めたい」という気持ちはないと話す。
「いまインターネットをのぞけば情報が溢れ、スマホ片手に海外ともタイムラグなくコミュニケーションを取ることが出来ます。そのような状況下で海外と日本という距離感へのこだわりにはあまり意味がない。シンプルですがwagashi asobiの思いは現在の商品を地元の方々に自慢の手土産として選んで頂けるような和菓子に育てること、街の名菓・老舗になること。そこから道は自然と広がってゆくのではないでしょうか」。

「行雲流水」

「行雲流水」

今回、BLUE MOTIONSのために稲葉氏が考案してくれたオリジナルのらくがん「行雲流水(こううんりゅうすい)」。空を行く雲と流れる水。物事に執着せず、淡々として自然の流れの中に生きること。描かれた渦巻きは水を表す“観世水”の模様。その水面を渡る一筋の青は“つゆ草”の花びらから作られたもの。一般に和菓子で青色を出すことは難しいと言われているが、色素や合成香料を使用しないwagashi asobiならではの粋が光る。口に入れるとほのかにレモンが香る爽やかな一品。

「あお」

「あお」

「桜色のらくがんの名前がなぜ『あお』なのか。中国の五行五色において、春は青をさす。また渦巻き模様は観世水と呼ばれ水を表す古典の意匠である。春は青空をうつす水面を桜の花びらが覆い尽くしている。つまりピンクの下に青を隠しているんです。“おいしい”だけではなく、背景から広がる物語を大切にしたい。和菓子を介して過ごす時間、そしてそこから生まれる“和”を楽しんで欲しいんです。らくがんを口に含めば、ほんの一瞬でその形は溶けてなくなってしまいます。ですがその時の記憶はずっと心に刻まれていく。そんな和菓子を作っていきたい。どこかで私はコミュニケーションのひとつのツールとして、和菓子を選んだのかもしれませんね」。そこには茶道における“和敬清寂(わけいせいじゃく)”の精神が流れている。

らくがんを作る際に使用する木型

「明治維新以降、洋菓子という概念が生まれ『外国のものを取り入れたら和菓子じゃない』と言われるように。そこで和菓子文化の時計は止まってしまったように思います。ですが元来、和菓子とは何百年も昔から世界の文化の影響を受けて時代ごとに変化していくものでした。いつの時代も職人たちは菓子で人を喜ばせたいという挑戦を続けてきたはずです。おそらく柏餅が出来たときも最初は『柏の葉っぱでくるむなんて狂ってる』と言われていたのではないでしょうか(笑)。いまに生きる私たちは、着るものも食べるものも趣向も変わってきている。その時代に合わせて和菓子も変わっていく。先人たちの知恵を生かし、和菓子を変えるのではなく和菓子で出来ることをこれからも探っていきたい。もしwagashi asobiが現在の和菓子の流れを1ミリでものばすことが出来たなら、次の世代たちはその1ミリ先からスタートすることが出来る。脈々と培われてきた和菓子文化の伝統と歴史。その長い年月の突端を少しでも未来へのばし、次の世代へと繋いでいきたいんです」。

この夏には初となる社員(職人)が一名、wagashi asobiに加わるという。「いうなれば彼が和菓子職人として独立し、社長になるまでをサポートするプロジェクトです。一般的には世襲制であり独立開業が難しかった和菓子業界ですが、私たちの事例をモデルケースに、職人たちが独立していけるような業界にしていきたい。私たちを踏みきり台にして、未来の職人たちが羽ばたき、独立という夢を叶えていって欲しい。そのための第一歩です」。

止まっていた時計の針を、静かに、前へ前へと進めていく。職人の左手に巻かれたOCEANUSは、和菓子の未来と共に、その時を刻んでいくだろう。

Text: Aoko Umi | Photography: Masashi Nagao

稲葉 基大(いなば もとひろ)

和菓子職人

創作和菓子ユニット「wagashi asobi」のメンバーとして「作って・売って・買って・食べて…」という商品で終わってしまう物ではなく、もっと面白い和菓子の新たな可能性を探るため、さまざまなフィールドで〈wagashi〉を介して〈asobi〉という活動を展開。東京都大田区上池台に構えたアトリエを拠点に、首都圏を中心に国内だけでなくニューヨークやパリなど海外にも活動の「和」を広げている。2016年4月「wagashi asobi」として初の著作となる『わがしごと』(コトノハ)をリリース。

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