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内面世界を旅し、心の揺らぎを見据えて
精神科医 星野概念氏

内面世界を旅し、心の揺らぎを見据えて
精神科医 星野概念氏

白衣に袖を通し、カルテに目を走らせれば、診療室の時間の流れが変わってゆく。患者さんとふたり、心の内面を探る時間は濃密であり、緊張感にあふれている。精神科医として総合病院に勤務する傍ら、職能を生かした執筆も多数行い、ラジオのパーソナリティ、時にはミュージシャンとしても活躍する星野概念氏。多彩な活動の軸となる「精神医学」、そして氏の目指す「心の活動」について話を伺った。

精神科医としてのアウトリーチ活動

「外来患者さんのカウンセリング、入院患者さんの診療、それに加えて夜の救急外来の当直時には警察に保護されて受診に至る患者さんを診ることもあります。情緒不安定で自分や他者を傷つけてしまう恐れのある人など場合は様々ですが、警察官に脇を固められた患者さんに対面するというのは精神科医ならではかもしれません」。
当直で月に数日は病院に泊まり、土曜日には別の病院で非常勤の半日勤務をこなすという。そんなハードなスケジュールの中で数本の連載をこなし、ラジオのレギュラー出演、時には地方でライブを行うことも。さまざまなジャンルで活躍しているようにも見えるが、あくまですべての軸足は精神医学にあるという。

「すべては精神科医としてのアウトリーチ活動と言えるかもしれないですね。たとえば執筆活動は、理論立てて後輩たちに教えたり、自らの知識を整理する上でも非常に役立っています。そして様々なメディアを通じて、あまり真面目すぎない形で「心」に関することを知って欲しい。知らずに苦しんでいること、知っていたら楽になることは沢山あると思うんです。心について、たとえ薄くとも広く知ってもらうこと、裾野を広げること。そんな想いで執筆に取り組んでいます」。

患者さんに寄り添う医師になること

「仕方がないことですが、診察時に不安定になってしまった患者さんに、正直傷つくようなことを言われることもあります。かつて研修医の頃はそれを正面から受けとめすぎて、表には出さずとも心が乱れ、患者さんと距離を取ってしまうこともありました。でもそれは患者さんも辛いから言ってしまっていることなんです。そんな時でも余裕を持ってフラットに接することが出来るように。仮に心が揺らいでも、揺らいだ自分を認識しながら接してゆきたい。そのためにも知識と技を磨いていきたいと常に思っています」。

いまこの病院には星野氏の大学時代の指導医で、師匠と呼べる人が勤務しているという。「彼は普段は関西弁バリバリで、歯に衣着せぬキャラクター全開なのですが、酔っぱらうと必ず勉強していることの話になる。普段は恥ずかしいのか、おくびにも出さないのですが(笑)。人知れず勉強ばかりしていて、だからこそ揺るぎない知識を備えている。彼のカバンの中にはいつもボロボロになった本たちが入っていることを知っています。私自身もそうありたいですね」。

精神医学の巨人たちに触れて

フロイト、ユング、アドラー。精神医学の巨人たちの考えにふれることで、自分の現在地を把握する。学ぶほどに知識への欲求は広がってゆくという。「知識を身につけていくほどに、彼らの言葉が身近になり、新たな発見があります。彼らもかつては患者さんを前にして揺らいでいました。ですが、その揺らぎこそが必要であり、患者さんへの共感へと繋がっていくのだと思います」。
鹿児島で活躍する精神科医・神田橋條治氏にも多大な影響を受けていると星野氏は話す。「遠方で講演の情報などもなかなか入りにくいのですが、開催時には九州まで聞きにいくこともあります。著書も多数出されているのですが、神田橋先生の理論は私の肌に合うというか、しっくり来るんです。医学書っぽくない独自の例えを用いながらも、私の理想とする患者さんへの寄り添い方など、そのコツが散りばめられているんです」。
執筆活動など、独自の目線とユーモアで「心のこと」を分かりやすく広める星野氏のアウトリーチ活動。その裏には膨大な量の知識と、飽くなき学びへの欲求が隠れている。
わずかな心の揺らぎも読み取ること。人の心、その内面世界を旅する精神科医にとって、ぶれることのない自らの軸を持つこと。その腕には、今日もオシアナスがその正確無比な時を刻み続けている。

Text: Aoko Umi | Photography: Masashi Nagao

星野概念(ほしのがいねん)

総合病院に勤務する精神科医。精神医学や心理学を少しでも身近に感じてもらうことを考えている。Web「Yahoo!ライフマガジン」、「MODERN FART」、雑誌「CREA」、「BRUTUS」での連載の他、様々な場所への寄稿をする。音楽活動も様々な形で行う。ラジオも。

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