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BLUE MOTIONSNew Year 2018 issue
THE CORE
すべては“CORE”から生まれる

Encyclopedia OCEANUS #8

時計の心臓 について語る ~山形カシオ Vol.2

エンサイクロペディア特別編として全3回に渡り、特集しているOCEANUSの聖地・山形カシオ。CASIOのマザーファクトリーとして存在するその最大の特徴は、部品の金型から設計・製作を行い、パーツ成形、基板実装、組み立て、そして印刷までの一貫生産を全て自社工場で行っていることであろう。
前回はその全体像についてお届けしたが、今回はより掘り下げて、OCEANUSの心臓部とも言うべき精密部品、そして普段あまり取り上げられることのない、そこに携わる職人たちを紹介したいと思う。

OCEANUSという小宇宙に存在するミクロンの世界

OCEANUSの直径約40mmという限られたスペースに搭載されているソーラーパネル、アンテナ、モーター、ICなど。それら先進テクノロジーの象徴とも言うべき部品の裏で、一見目立たない存在として支える“歯車”という部品がある。その大きさは、わずか1.1mmほどという。しかし、その肉眼で確認するのもなかなか難しい部品があってこそ、始めて動力伝達が行われ、正確な時を刻むOCEANUSが存在するのだ。それでは皆さんを、ミクロンの世界へお連れしよう。

ミクロン単位の精密な部品を自社で作るためには、超高精度な金型も自社で製造しなくてはならない。それはまず、金型の設計から始まる。
「デザイナーから3Dデータが送られてくるのですが、それをまず、どう金型にするのかを考えます。難しいのは、品質にこだわりながら、形状、外観部品などの不具合をなくすところです。中でもギヤ関係は、1/1000ミリ単位で修正と成形を整えながらゴールを目指していくので、非常に難易度が高く、特に神経を使います」。
そう語るのは、金型技術課に所属する中村氏。

時計統轄部 時計品質技術部 金型技術課 中村彰宏氏

3DCADで時計部品の金型を設計している様子

そのように設計されたものを、実際の金型に起こし、成形していくための工程が金型加工と呼ばれるものである。
「コンマ2ミリのワイヤー線を使った金型部品の加工や、50ミクロンのワイヤー線を使って歯車を加工しているのが我々の仕事です」。
プログラミングから加工までを担当し、時計の命とも言える歯車を形にする金型製造課の武田氏。実際に見る歯車の小ささといったら、我々の想像をはるかに凌駕する。

時計統轄部 時計製造部 金型製造課 武田伸也氏

成型する前の金型部品

「やはり細かい部品は特に品質が命になってくるので、どれだけ金型加工の精度を上げるかがすべてだと思っています。大変なのは同じ物を同じ条件で加工しても、なかなか良い精度の物は出来ないんですね。だからこそ、機械の状況や温度なども含めた機械のメンテナンスがすごく重要になってくる訳です。あとは、日によって違う条件を、その都度選択していくところに気を遣います」。

歯車(ギア)の精密金型

左写真の金型を使用して射出成形している様子

なんと、ひとつの歯車を加工するのに3時間以上も掛かるのだという。
「たったひとつの歯車かもしれないですが、それこそが私の努力の結晶であり、自分自身を成長させてくれるのです」。

たったひとつ。確かに彼ら職人が行う工程は、OCEANUSが完成されるまでの“ひとつの歯車”に過ぎないかもしれない。しかしそのプライドを持った歯車がどれほど重要で、その集合体こそが山形カシオであり、OCEANUSの本当の意味での“心臓”なのかもしれない。

心臓部だけでない、山形カシオの技術力

最後に、スパッタリングによる加飾技術についても紹介しておきたい。残念ながら、山形カシオでは現在のところ、OCEANUSのスパッタリングは試作開発しか行われていないが、そこはCASIOウオッチ全体の先進技術として、ぜひ知ってもらいたいと思う。
ここではプラスチックの成型品表面に、金属類の膜をコーティングするという、加飾作業を行っている。担当の時計品質技術課・若木氏は語る。
「デザイナーが求める色に対して可能な限り近づけ、安定して量産ができる状況を探すという作業をしています。物作りをする上では当たり前のことなのですが、デザイナーとの落とし所を探すのがなかなか大変です(笑)」。

時計品質技術課 若木一郎氏

スパッタリング装置

スパッタリングの難しさは、成型品の不具合を拡大、強調してしまうところだという。
「不具合を直す調整に、1か月以上も掛かってしまうこともあります。しかも実際に蒸着を機械でやっている最中は、中の状況がわからないので、完成形をイメージしながら作業するところが非常に難しいです」。

スパッタリング装置へ文字板を投入する様子

文字板のスパッタリング完了品

まさに経験が物を言う工程。常にエンドユーザーの気持ちになり、手にした時に喜びを覚えてもらえることを想像しながら、日々の努力を積み重ねているのである。

感性のデジタル化・感情のアナログ化

デザインを起こしてから部品を作り、一本のOCEANUSが完成するまでにここまで長い時間が掛かっているとは正直驚きである。その努力の積み重ねといったら並大抵のことではなかろう。そんな究極な仕事をしている彼らが、「お客様の喜ぶ顔が想像できる品質のものが出来上がった時が一番嬉しい」と声を揃えて話してくれた。この一体感こそが、青の革新の答えなのであろう。“感性のデジタル化”を目指すOCEANUSにこそ、この研ぎ澄まされたアナログの感覚が絶対条件として必要なのだ。

Text: Tatsuya Nakamura | Photography: Kentaro Ohama