Skip to Content
BLUE MOTIONSWinter 2017 issue
PURSUIT OF QUALITY
追求する心

Deep Quality Of “MANGA”

“MANGA” という 必読書

MANGAという表記は世界共通語ともなっている。その意味でも“漫画”は、世界に誇る日本文化のひとつと言えるだろう。その発祥は古く、中世の戯画の発展系とも考えられる。そこには笑いだけでなく風刺や、様々な諧謔が含まれ、その歴史的な背景は脈々と現代まで受け継がれているように思う。
そして今。様々な漫画の中でも特に大人の男性が読むにふさわしい薀蓄や示唆に富んだものが多く生まれている。世界に冠たる日本の漫画を子供向けのものとスルーしていては勿体無く、一つの教養として考えてみてはどうか。さらに、視覚伝達コミュニケーションのメディアとしてもう一度、漫画を捉えなおすのも良いのではないだろうか。
BLUE MOTIONSはそう考え、現代の必読書としての漫画をセレクトしてみた。
時間を忘れ、漫画に没頭する。その中に入りこむことで見えてくる新しい価値観を共有することで、進化への道標にならんことを。

「MASTERキートン」
虚実の隙間に見える男の美学

保険会社の調査員にして、オックスフォード大卒の考古学者。その裏では元英国特殊部隊員だったという、複雑な背景を持つ主人公。ここまでは虚。彼が数々の事件を解決して行くストーリーだが、その一つひとつは確実な史実に基づいている。主人公は、その豊富な経験と背景から武器を使わず、知識と知恵で犯人たちと対峙していく。
この虚と実が入り混じった物語は、まるで上質な短編小説のようであり、サスペンス映画のようでもある。しかし一貫して描かれるのは主人公の、飄々とした佇まいと、必要以上に知識をひけらかさず、報酬のためだけに動くこともない。
そこには、男の生き様としての揺るぎなさと、知識と経験がもたらす人生の深みさえ感じることができる。
読むように見る。漫画の一つの醍醐味がここにはある。

「BLUE GIANT」
忘れかけた“夢”や“情熱”をもう一度

小栗旬主演で映画化もされた人気漫画「岳」の作者である石塚真一が手掛けるジャズを題材にした物語。
仙台市に住み、バスケ部に所属するどこにでもいるような高校生・宮本大が、ライブハウスで観たジャズライブに衝撃を受け、世界一のジャズマンを目指していく過程を実にテンポよく描いているこの作品。
兄がローンを組んでまで購入してくれたテナーサックスを、譜面すら読めない主人公が、雨の日も風の日も365日休むことなく独学で練習を重ねる中、様々な人との出会いと別れを繰り返し成長していく姿は、大人になるにつれ多くの人が忘れていく、夢や情熱というものをもう一度思い出させてくれ、涙なしでは読めない。
さらにこの漫画のすごいところは、細部にまで行き届いた細かい描写により、絵に命が吹き込まれ、実際に“音=ジャズ”を感じながらその世界を楽しめるのだ。これぞ世界に誇る、ジャパン・クオリティの娯楽である。

「神の雫」
薀蓄の向こうにあるもの

「神の雫」は空前のワインブームの裏の立役者として知られている。そこで語られるワインの数々は、フランスでさえ高評価を得、多くの賞を受賞している。取り上げられるワインもいわゆる五大シャトーや、著名ワインだけでなく無名のワインも多く、作者の造詣の深さはどこまでも深い。
ただ我々がこの作品をピックアップしたのは、ワイン知識を深めるためだけではない。この多くの物語に描かれている、ワインの造り手達への深い愛情の眼差しを読み取ってほしいからだ。畑、日照、歴史…様々な要素が生み出す豊潤な香りと奥深い味わい。その背景にある造り手達の並々ならない努力と成功と失敗の数々。「神の雫」がただのワイン漫画でないのは、物造りの深淵に迫ろうという作者の想いが伝わってくるからだ。そのことはタイトルに込められた、人とワインの深い関係性に示されているだろう。

「王様の仕立て屋~フィオリ・ディ・ジラソーレ~」
漫画から学ぶ男の嗜み

洒落者や腕利きの服飾職人が多く集まる街、イタリアはナポリを舞台に、日本人でありながら、伝説のサルトリア(仕立て屋)と言われた親方・マリオ・サントリーヨが唯一認めた弟子と言われているのが、主人公の織部悠である。
そんな織部が、仕立てという仕事を通し、人間関係の修復や、お客の人生までも一変させてしまうなど痛快なストーリーが人気の、“王様の仕立て屋”最新シリーズが「~フィリオ・ディ・ジラソーレ~」だ。
この漫画の面白いところは、“仕立て”という仕事を細かく描くことはもちろんなのだが、それに加えて腕時計や万年筆をはじめとする男の小道具などとの粋な付き合い方や、着こなしのポイントの解説など、嗜みとして必要な情報をさりげなく盛り込んでくれているところなのだ。このような要素は、こだわりのある男性には必ず刺さるはず。ジェントルマンの極みを、漫画から学んでみてはいかがだろう。

「ブッダ」
哲学する漫画

日本漫画界の巨人、手塚治虫は数多くの名作を生み出しているが、その中でも特にこのブッダは、異色と言える。実在とされる人物をモチーフにし、しかもそれが歴史上最も偉大な人物の一人だという異例づくめだからだ。言うまでもなくブッダとは仏教の開祖。実在とされるが、ある意味で謎に包まれた部分も多い。それをあえて史実と創作を交えつつ題材としたのは、手塚氏自身の名作「火の鳥」の過程だったという。
ブッダを手塚氏が取り組んだのは、彼自身が“生きる意味”について漫画を通して追求していたからに他ならないのではないかと思う。それは、生と死という命題を漫画という形式を通して誰にでもわかりやすく伝える。鉄腕アトムにしろ、ブラックジャックにしろ、手塚作品の中には生と死の問題が頻繁に登場する。そう考えると、宗教の開祖であり本人自身が生きることの意味を探求したブッダの生涯を描くことは、ある意味必然だったと思える。
この作品でのブッダは悩める青年であり、考え続ける一人の男として描かれる。あえてこの作品を今回セレクトしたのは、仏教とはなんだったのかを知り、また思索を追求する過程で様々な障害をどう乗り越えるかを日常の中で考えるきっかけとして、漫画というシンプルなビジュアルコミュニケーションの中から伝えてくれるからだ。

漫画が一つの文化として定着して久しい。大学での研究素材になることも多いほど、時代を象徴するのは確かだ。もちろん、大人のためだけでなく子供向けにも多くの漫画が存在し、使いようによっては教育の一環となるだろうし、多くの企業が漫画とのコラボレーションを行っている。さらに動く漫画として誕生したアニメは、漫画以上に世界規模で日本文化の象徴となっている。

しかし、デジタル時代になり、動画やアニメが隆盛を極めようが、ビジュアルコミュニケーションメディアとしての漫画が廃れることはない。読むのが漫画雑誌や単行本でなくデジタル機器となってもだ。
それは、漫画の魅力が絵と文という極めてアナログ的な構造を持っているからだ。人は、アナログで学ぶことの方がはるかに多いと思う。
OCEANUSがアナログにこだわり、次世代のアナログ時計の進化の姿を追求するのも、人間は視覚伝達により、同時により多くの情報を得ることができるからだ。
漫画が永遠に私たちの副読本として存在する意義は、そこにあるのかもしれない。

Text: Y. Nag & Tatsuya Nakamura | Photography: Masashi Nagao

「MASTERキートン」浦沢直樹 / 脚本:勝鹿北星・長崎尚志

1988年から1994年にかけて『ビッグコミックオリジナル』にて連載され、アニメ化もされた他、番外編として「キートン動物記」や続編として「MASTERキートン Reマスター」がある。

©1989 浦沢直樹/スタジオナッツ・勝鹿北星・長崎尚志
ウェブサイト

「BLUE GIANT」石塚 真一

『ビックコミック』にて2013年~2016年17号に連載。同年18号から、「BLUE GIANT SUPREME」としてドイツを舞台に現在も連載中。

©石塚 真一/ 小学館
ウェブサイト

「神の雫」作: 亜樹直 / 画: オキモト・シュウ

2004年から『モーニング KC』にて連載開始。いったん2014年に連載を終了するが、2015年より“マリアージュ~神の雫 最終章~”編の連載がスタート。今なお至高のワインへの追求はとどまることを知らない。

©亜樹直/オキモト・シュウ/講談社
ウェブサイト

「王様の仕立て屋~フィオリ・ディ・ジラソーレ~」大河原

「王様の仕立て屋~サルト・フィニート~」、「王様の仕立て屋~サルトリア・ナポレターナ~」、「王様の仕立て屋~フィオリ・ディ・ジラソーレ~」の三部構成。今回ご紹介した最新シリーズは、『グランドジャンプ』にて連載中。

©大河原/集英社 グランドジャンプ連載中
ウェブサイト

「ブッダ」手塚治虫

1972年から1983年まで『希望の友』にて連載された手塚治虫氏による漫画。世界各国の言葉に翻訳され、発行部数通算2000万部を誇る名作。

©手塚治虫/潮出版社
ウェブサイト