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BLUE MOTIONSSeptember 2017 issue
BODY & SOUL
心技体を鍛える

Best Books for Men

男を磨く 3冊を 熟読する

秋深く。読書に最適な季節と言われている。と言うわけで、Blue Motions編集部でも男の必読書は何か、を議論したが結論に至らず。そこで“読書狂”と名高く、各誌で書評を担当する今泉渚氏に選定を依頼した。今泉氏の視点による“男の必読書2017秋編”をどうぞお楽しみいただきたい(だけでなく、読んでいただきたい)。

『大いなる遺産』

男を磨く本、と聞いてまず一番最初に思いついたのが、このディケンズの名作『大いなる遺産』。田舎の鍛冶屋で見習いとして働く主人公ピップは、突然謎の人物から巨額の遺産を贈られ、ロンドンに赴き紳士になる修行を始めるという物語なのですが、「本物の紳士とは?」という問いが大きなテーマの一つになっています。その答えは、是非実際に読んで自分なりに見つけて頂きたいのですが、とにかく面白いのがピップが紳士になる過程を描いた物語の中盤部分。ピップは周りの人々から紳士として扱われることで、だんだんと紳士然としてくるのです。もちろん、これはディケンズ流のアイロニーですが、同時にこの社会の真実でもあるでしょう。“We are what we pretend to be, so we must be careful about what we pretend to be.”(あなたはあなたが演じている誰かに過ぎない。だから誰のフリをするのか気をつけなければならない) というのは、カート・ヴォネガットの言葉ですが、もしかしたら自分磨きのコツとして、自分の憧れや理想像の真似をしてみるのも悪くないかもしれません。

『高慢と偏見』

『大いなる遺産』のピップがなぜ紳士になりたがったかというと、身分違いの初恋の相手、エステラの心を手に入れたいという願望があったからなのです。エステラのキャラクターが文学史上でも指折りの悪女で、ピップの心をひたすら折っていくシーンはもう最高なのですが、その話は置いておいて、もしかしたら女性の存在というのも男を磨いてくれる大切な要素なのかもしれません。ここで読みたいのが、ジェイン・オースティンの名作『高慢と偏見』。なんと200年以上も前に書かれたにも関わらず、登場人物のミスター・ダーシーは文学作品に登場する理想の男性として今でも世界中の女性から支持されているのです。なんとこのミスター・ダーシー、特定のオスのマウスの尿に含まれるフェロモンの名前にまでなっているのです。(そのフェロモンが何をするか? もちろんメスのマウスを惹きつけます。)この本を読んでミスター・ダーシーの何がそんなにも女性に支持されているのか、研究してみるのはいかがでしょうか?

『たいした問題じゃないが―イギリス・コラム傑作選』

紳士的な態度、女性に愛される魅力、を磨いたら、次は言動。ウィットに富んだ会話こそ、男性を魅力的に見せる最大の武器なはず。実際、女友達と「どんな男性がタイプ?」という話になると、「面白い人」、「笑わせてくれる人」、「ユーモアがある人」などという答えの方が、単なるルックス的な答えよりも圧倒的に多いような気がします。そこでおすすめしたいのが、『たいした問題じゃないが―イギリス・コラム傑作選』。モーム(※1)の研究者であり、翻訳者の行方昭夫氏によるコラム選集で、20世紀初頭の英国で活躍したガードナー、ルーカス、リンド、ミルンの4人の名エッセイストたちの作品を収めています。タイトル通り、本当にたいした問題ではない事柄(タイトルの一例を挙げると、「『どうぞ』をつけるつけない」、「時間厳守は悪風だ」、「冬に書かれた朝寝論」など)を、とにかく面白おかしくシニカルに語る筆力はまさに圧巻の一言。そしてその根底に流れる紳士ならではのジェンティールな精神、すなわち温かさやおおらかさ、そして磨き抜かれたインテリジェンスに触れることで、男性としての魅力が増すこと間違いないはずです。

『大いなる遺産』(上巻/下巻)

ディケンズ (著), 山西 英一 (翻訳)
新潮文庫刊

『高慢と偏見』(上巻/下巻)

ジェイン・オースティン (著), 中野 康司 (翻訳)
ちくま文庫

『たいした問題じゃないが―イギリス・コラム傑作選』

行方 昭夫 (編訳)
岩波文庫

Text: Nagisa Imaizumi | Photography: Masashi Nagao

今泉 渚 (いまいずみ なぎさ)

ニューヨーク大学文学部卒業後、外資系ブランドのPRを経て独立し、現在はBLENDi 代表取締役兼チーフ・パブリシストとして活躍。読書部屋の床が抜けるのではないかと日々怯えながらも暇があってもなくても本を買い読み漁っている。ブログ、『本のPR』では、朋友ジラール・ミチアキと古今東西の名作を紹介し、読書の面白さ、おしゃれさをアピールしている。
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※1:サマセット・モームW. Somerset Maugham  フランス生まれのイギリス人作家・劇作家。代表作に「月と6ペンス」など。軍医、諜報部員などを経験した後、作家に。平易な文章で人生の機微を描く作風が特徴。