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Marine Life

もう一つの マリンライフ

以前、ボート(クルーザー)専門誌の仕事をしていたことがある。ボートとヨットは、同じ船ながら似て非なるもの。エンジン音なく滑るように海を進むヨットの感覚は素晴らしいもので、自然との一体感を感じられる。給油なしに世界中を航海できるのもヨットならではのロマンだ。一方、ボートは人間が主役。モナコに停泊する豪華クルーザー、ハイスピードで海原を駆ける巨大なエンジンを積んだスピードボート、あるいは水上スキーやウェイクボードを引っ張るスキーボート、ひと言でボートといってもさまざまだが、ボートを持つ理由としてファンが多いのは釣り。なかでも、巨大なマーリン(カジキマグロ)を狙うトローリングはボートの醍醐味のひとつだ。ドンブラコといった感じのクルージングスピードでルアーを流しながらのんびりマーリンを待つが、ひとたびヒットするとデッキは戦場と化す。魚と人の一騎打ちだ。このあたりの心情はヘミングウェイの小説に詳しいが、生き物と生き物のラインをはさんでのやり取りに人生を感じるのはトローリングならではの感覚である。

そしてもうひとつ、移動手段としてのボートもある。フロリダやヴェネチア、イタリア半島の西海岸など、入り組んだ地形や運河、あるいは小さい島々が点在する場所でボートは足。たとえば、長旅を経てヴェネチアの空港に降り立ち、そのまま船に乗り込んで移動する時の独特の感覚を味わったことのある人も多いだろう。かつては運河が張り巡らされた東京が江戸時代のままだったらどうだろうとよく話したものだ。湾岸の高層マンションに桟橋があって、木製の小型ボートで都心に出かけたり、横浜まで食事に行ったり、そんなシーンがあったら実に趣深い。世界のマリンライフに触れたなかで印象深かったのは、イタリア半島のポルトフィーノ。小さな湾にさまざまな大きさやスタイルのボートが停泊し、陸上には洒落たリストランテやブティック、丘を見上げれば、地形に溶け込むように立つ味わいのある家々。歴史と海のスタイルが育んだ豊かなマリンカルチャーがそこにはあった。

日本で海のライフスタイルというと、サーフィンを中心としたビーチカルチャーが人気だ。しかし、船を中心にしたマリンカルチャーはもうひとつの海のカルチャー。突き詰めれば同じ、海や自然と寄り添うように融合する価値観があるのだが、マリンカルチャーにはビーチカルチャーとは異なる美学がある。陸と海はふたつでひとつ。多くのハイブランドが都会的なエッジーなラインと、ドレスダウンのビーチリゾートラインで構成されているように、街のカルチャーと海辺のカルチャーが融合してはじめてライフスタイルは完成するのだ。さて、イタリアの海辺のファッションで印象に残っていることがある。コットンやデニムのパンツに、素材の良さそうなシャツ。半袖ではなく長袖のシャツの袖口をさらりと折り返して、海辺に似合うゴージャスだけれどドレスではない時計をさりげなく見せている。そんなシーンにOCEANUSはぴったりフィットすると思うのだ。

Text: Eisuke Tomiyama | Photography: Junji Takasago